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企業の人事ご担当者様へ:遠田研究室が輩出する学生像

現代のビジネス環境は,かつてないほどの速度で変化しています.このような予測困難な時代において企業が持続的に成長を遂げるためには,自ら課題を発見し,主体的に解決策を導き出せる人材の存在が不可欠です.単なる知識やスキルだけでなく,科学的根拠に基づいた論理的思考力と,それを実践に繋げる実装力を兼ね備えた人材が,今まさに求められています.

私たち遠田研究室は,〈里山に学び,調和をデザインする〉という独自の理念を掲げ,これからの社会を担う人材の育成に取り組んでいます.自然と人間との関係性の中から本質的な課題を発見(きづく)し,具体的なかたち(つくる)へと落とし込み,その価値を科学的に検証(はかる)し,得られた知見から新たな発見(わかる)へと繋げる――.このダイナミックな学びのサイクルを通じて,学生は社会のあらゆる場面で通用する普遍的な問題解決能力と,未来を自律的にデザインする力を養います.

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1. キャリア形成の核となる「Connecting Dots」の思考法

1.1. 導入:なぜキャリアプランに物語性が必要か

現代のキャリア形成において,保有するスキルセットを羅列するだけでは,個人の価値を十分に伝えることはできません.重要なのは,これまでの多様な経験を統合し,自分自身の軸となる価値観に基づいた一貫性のある「物語」として語る自己分析能力です.

遠田研究室では,学生のキャリアプランニングの根幹に,スティーブ・ジョブズが提唱した「Connecting Dots(点と点を繋ぐ)」という思考法を据えています.これは,過去の経験の一つひとつが未来の自分を形作る点であることを理解し,それらを戦略的に繋ぎ合わせることで,自身のキャリアに揺るぎない物語性を持たせるためのアプローチです.

1.2. 「Connecting Dots」とは何か:過去・現在・未来を繋ぐ自己分析

「Connecting Dots」とは,自身の過去から現在に至るまでの取り組みを俯瞰し,未来の姿を構想する自己分析のプロセスです.研究室の「生産実習」では,学生は大学1,2年次に制作した作品から卒業研究に至るまで,自らの学びの軌跡を振り返ります.

その過程で,個々の成果物に共通して流れるテーマや価値観,すなわち「関心軸」を発見します.これは,単なるスキルの棚卸しではなく,「自分自身が何者であるか」という問いに対する深い洞察を得るための活動です.このプロセスを通じて,学生は自身の興味の源泉と強みを言語化し,自己認識を確固たるものにしていきます.

1.3. 人事担当者に響くストーリーの構築

この深い自己分析から得られた「関心軸」は,採用担当者の心に響く,説得力のある「ストーリー」へと昇華されます.当研究室では,自己分析を次のように定義しています.

最終的に,その企業にとってなぜ〈私〉が採用すべき人材であるのかについて,採用担当者に替わって説明するストーリーを組み立てること

学生は,自身の具体的な経験や学びを,企業の事業内容や将来性と結びつけながら,「なぜ自分が貴社に貢献できるのか」を論理的に説明する能力を養います.これは,学生自身のポテンシャルと企業への貢献意欲を,過去の実績と未来のビジョンを接続させることで証明する,極めて戦略的なツールなのです.


このようにして構築された強固な自己認識とキャリア観は,研究室独自の体系的なカリキュラムを通じて培われる具体的なスキルセットと深い洞察力に裏打ちされています.次章では,その専門性を育む教育プロセスについて詳述します.

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2. 専門性を育むカリキュラム:「気づき」から「実装」への体系的プロセス

2.1.  導入:単なるスキルの習得を超えて

遠田研究室のカリキュラムは,個別のスキル習得に留まるものではありません.〈里山に学び,調和をデザインする〉という研究室の活動全体を統括するテーマの下,学生が社会の本質的な課題を発見し,解決へと導く能力を体系的に身につけることを目的としています.

すべての教育活動の基盤となっているのが,「きづく→つくる→はかる→わかる」というダイナミックな学びのサイクルです.この循環的なプロセスは一度きりで終わるのではなく,最終段階の「わかる(理解)」が次なる新たな「きづく(発見)」を誘発する,自己増殖的な学びのダイナミズムを形成します.これにより,学生は机上の空論ではない,実践的かつ科学的な思考力を段階的に習得していきます.

2.2. フェーズ1:観察と実践「きづくとつくる」「つくるときづく」

学びの出発点は,実践を通じた課題発見です.

第1課題「はじめての里山」(きづくとつくる) この課題では,学生は里山での農作業や自然体験に身を置きます.自然との直接的な関わりの中から,自身の興味の原点となる根源的な〈気づき〉を得ることを目的としています.これは,自らが「何に興味を持つ人間なのか」を見定める,自己発見のプロセスでもあります.

第2課題「睦沢町向上委員会」(つくるときづく) 次に,個人的な〈気づき〉を具体的な社会課題へと接続します.このPBL(Project-Based Learning)型の課題では,「睦沢町の魅力を向上させる」というテーマに対し,学生はチームで企画立案から製作までを行います.〈気づき〉を具体的な〈モノ・ハコ・コト〉へと昇華させる過程で,個人の発見が社会貢献へと繋がる実践力を育成します.

2.3. フェーズ2:科学的検証「つくるとはかる」

「ものづくり」が単なる自己満足で終わらないために,本研究室では科学的・工学的な検証プロセスを重視しています.

第3課題「里山研究所,はじめました.」 この課題は,卒業研究の前哨戦と位置づけられています.学生は自らの〈気づき〉に基づき定義した里山の〈魅力〉を,客観的なデータを用いて評価し,科学的根拠を伴った提案を行う能力を養います.具体的には,心理評価(アンケート),行動評価(動作解析),生理評価(脳活動量計測装置の活用など)といった工学的な手法を用い,仮説の妥当性を検証します.これにより,直感や主観に頼らない,論理的で説得力のある提案能力が育まれます.

2.4. 基礎リテラシーの習得と応用

専門的な研究成果や提案を,他者に効果的に伝えるコミュニケーション能力も不可欠です.

一眼レフカメラの撮影技術や動画編集スキルに加え,本研究室ではレイアウトデザインの原理についても深く学びます.単なるレイアウト術ではなく,自然界のあらゆる現象に共通して見られる数学的原理――例えば,黄金比やフィボナッチ数列といった自己相似性(フラクタル性)のパターン――を学びます.人間が本能的に自然との繋がりを求める(バイオフィリア仮説)という考えに基づき,自然界の法則を活用したデザインは,人間にとって直感的に心地よく,美しいと感じられるものになるという仮説を検証します.これは,〈里山に学び,調和をデザインする〉という研究室の理念を,グラフィック表現という実践的なスキルへと接続する重要な学びです.

一方で,論文執筆のバイブルである木下是雄著「理科系の作文技術」の読解を通じて,主観的な「意見」と客観的な「事実」を峻別し,論理的で明快な文章を作成する技術を習得します.

これらのスキルは,ポスターや成果集といった具体的なアウトプットの制作を通じて統合され,学生の実践的な表現力とコミュニケーション能力を飛躍的に向上させます.


この体系的な教育プロセスを通じて,学生は単なる知識や技術の習得に留まらず,社会のあらゆる場面で通用する普遍的なコンピテンシーをその身に宿します.次章では,これらの学びから生まれる,遠田研究室の卒業生が持つ3つの核となる能力について解説します.

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3. 遠田研究室の卒業生が持つ3つのコア・コンピテンシー

3.1. 導入:貴社が求める人材像との接続

これまでの教育プロセスを通じて,遠田研究室の卒業生は,複雑で変化の激しい現代社会を生き抜き,価値を創造するための核となる3つのコンピテンシーを身につけます.これらの能力は,貴社が求める「未来をデザインできる人材」の資質と深く合致するものです.

3.2. コンピテンシー1:発見に基づく課題定義力

本研究室の卒業研究は,「発見 → 共感 → 課題定義」というプロセスで進みます.この能力は,カリキュラムの初期段階である第1課題「はじめての里山」(きづくとつくる)および第2課題「睦沢町向上委員会」(つくるときづく)を通じて体系的に育成されます.

学生は,里山での体験から得た個人的な〈気づき〉という小さな「発見」から出発します.次に,その発見を社会が抱える課題の文脈に接続し,先行事例や既往研究をリサーチすることで「共感」のプロセスを経ます.最終的に,個人的な気づきは,より普遍的で解決すべき「課題」として客観的に再定義されるのです.これは,表層的な問題に惑わされることなく,物事の本質を捉え,自らが取り組むべきテーマを主体的に設定する,高度な知的コンピテンシーです.

3.3. コンピテンシー2:科学的根拠に基づく提案・実装力

「つくるとはかる」の理念に基づき,卒業生は直感や主観だけに頼らず,客観的なデータと論理に基づいた提案を行う能力を体得しています.この能力は特に,カリキュラムの第3課題「里山研究所,はじめました.」において集中的に鍛えられます.

例えば,『Zipfの法則に基づいた植栽の配置が執務者の心理・生理反応に及ぼす影響』といった卒業研究では,脳活動計測装置から得られる「総ヘモグロビン量の変化率」といった生理指標を用いて認知負荷の軽減効果を客観的に評価し,PANASのような主観的な心理評価と合わせて仮説を多角的に検証します.そして,その結果から得られた知見を,具体的な空間提案やプロダクト製作といった〈実装〉に繋げます.この科学的アプローチは,ビジネスにおける企画立案や意思決定の場面において,提案の妥当性と実現可能性を担保する極めて重要な能力です.

3.4. コンピテンシー3:主体的なキャリア構築力

第1章で詳述した「Connecting Dots」の思考法を実践することで,卒業生は自らのキャリアを主体的に設計し,自身の価値を他者に的確に伝える能力を備えています.

彼らにとって就職活動とは,内定を得るための短期的な活動(就職活動)ではなく,自らの過去の経験(点)と企業の未来(点)を接続し,新たな価値を共創する長期的なプロセス(キャリア構築)です.この視座は,入社後も自律的に学び,成長し,変化に適応しながら組織に貢献し続ける人材であることの力強い証左と言えるでしょう.

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おわりに:未来を共創するパートナーとして

遠田研究室が育成するのは,深い自己理解を基盤とし,科学的アプローチを用いて社会課題を解決し,自然や社会との〈調和をデザインする〉ことのできる,次世代のプロフェッショナルです.

彼らは,主体的な課題定義力,科学的根拠に基づく実装力,そして自律的なキャリア構築力という3つのコア・コンピテンシーを携え,社会へと羽ばたいていきます.その適応能力の高さは,大手ハウスメーカー(大和ハウスリフォーム株式会社),先鋭的なデザインファーム(株式会社ドラフト),グローバルIT企業(富士通株式会社),大手メーカーのR&D部門(三菱電機株式会社 統合デザイン研究所),さらには地方自治体(静岡県庁)といった,業種を問わない多岐にわたる就職先実績によっても証明されています.

当研究室の卒業生が,貴社にとって未来を共創する強力なパートナーとなりうることを確信しております.

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